MEKURMEKU
作品一覧今すぐ読む →
物語青空文庫 図書カード No.43754

ちゅうもんのおおいりょうりてん

注文の多い料理店

宮沢 賢治 著

二人の若い紳士が、ぴかぴか光る鉄砲をかつぎ、白熊のような犬を二匹連れて山奥へ狩りにやって来た。道に迷い、犬も死んで途方に暮れていると、奥深い森の中に立派な西洋館が現れる。玄関には『西洋料理店 山猫軒』の札が掲げられていた。
全156画面で、一文ずつめくる名文読書。

はじめから読む→

書誌情報・読書目安

初出
1924(大正13)年
読了目安
約6分(全156画面)
文字遣い
新字新仮名
底本
底本:『注文の多い料理店』新潮文庫、新潮社
入力・校正
入力:林弘美 校正:もりみつじゅんじ
青空文庫で確認する ↗

文章の目次

156 CHUNKS
CHAPTER

一

山奥の西洋館・山猫軒

  1. 01

    二人の若い紳士しんしが、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲てっぽうをかついで、白熊しろくまのような犬を二疋ひきつれて、だいぶ山奥やまおくの、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いいながら、あるいておりました。「ぜんたい、ここらの山は怪けしからんね。鳥も獣けものも一疋も居やがらん。

    ↗
  2. 02

    なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」

    ↗
  3. 03

    「鹿しかの黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞みまいもうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒たおれるだろうねえ。」それはだいぶの山奥でした。

    ↗
  4. 04

    案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、

    ↗
  5. 05

    どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。

    ↗
  6. 06

    それに、あんまり山が物凄ものすごいので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらく吠うなって、それから泡あわを吐はいて死んでしまいました。

    ↗
  7. 07

    「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」

    ↗
  8. 08

    と一人の紳士が、その犬の眼まぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。

    ↗
  9. 09

    「ぼくは二千八百円の損害だ。」

    ↗
  10. 10

    と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。

    ↗
  11. 11

    はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士の、

    ↗
  12. 12

    顔つきを見ながら云いました。「ぼくはもう戻もどろうとおもう。」「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空すいてきたし戻ろうとおもう。」「そいじゃ、これで切りあげよう。

    ↗
  13. 13

    なあに戻りに、昨日きのうの宿屋で、山鳥を拾円じゅうえんも買って帰ればいい。」「兎うさぎもでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。

    ↗
  14. 14

    では帰ろうじゃないか」

    ↗
  15. 15

    ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、

    ↗
  16. 16

    いっこうに見当がつかなくなっていました。

    ↗
  17. 17

    風がどうと吹ふいてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

    ↗
  18. 18

    「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」

    ↗
  19. 19

    「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」

    ↗
  20. 20

    「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」

    ↗
  21. 21

    「喰たべたいもんだなあ」

    ↗
  22. 22

    二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。

    ↗
  23. 23

    その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒いっけんの西洋造りの家がありました。そして玄関げんかんにはRESTAURANT西洋料理店WILDCAT HOUSE

    ↗
  24. 24

    山猫軒という札がでていました。「君、ちょうどいい。

    ↗
  25. 25

    ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」

    ↗
  26. 26

    「おや、こんなとこにおかしいね。

    ↗
  27. 27

    しかしとにかく何か食事ができるんだろう」「もちろんできるさ。

    ↗
  28. 28

    看板にそう書いてあるじゃないか」「はいろうじゃないか。

    ↗
  29. 29

    ぼくはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」

    ↗
  30. 30

    二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸せとの煉瓦れんがで組んで、実に立派なもんです。

    ↗
  31. 31

    そして硝子がらすの開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。

    ↗
  32. 32

    「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮えんりょはありません」二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。

    ↗
  33. 33

    「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、

    ↗
  34. 34

    きょう一日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。

    ↗
  35. 35

    このうちは料理店だけれどもただでご馳走ちそうするんだぜ。」「どうもそうらしい。

    ↗
  36. 36

    決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」

    ↗
  37. 37

    二人は戸を押おして、なかへ入りました。そこはすぐ廊下ろうかになっていました。

    ↗
  38. 38

    その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。

    ↗
  39. 39

    「ことに肥ふとったお方や若いお方は、大歓迎だいかんげいいたします」二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。

    ↗
  40. 40

    「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」

    ↗
  41. 41

    「ぼくらは両方兼ねてるから」ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗ぬりの扉とがありました。「どうも変な家うちだ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」

    ↗
  42. 42

    「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」

    ↗
  43. 43

    そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。

    ↗
  44. 44

    「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」

    ↗
  45. 45

    「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」「それあそうだ。

    ↗
  46. 46

    見たまえ、東京の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」

    ↗
  47. 47

    二人は云いながら、その扉をあけました。するとその裏側に、

    ↗
  48. 48

    「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」

    ↗
  49. 49

    「これはぜんたいどういうんだ。」ひとりの紳士は顔をしかめました。

    ↗
  50. 50

    「うん、これはきっと注文があまり多くて支度したくが手間取るけれどもごめん下さいと斯こういうことだ。」「そうだろう。早くどこか室へやの中にはいりたいもんだな。」「そしてテーブルに座すわりたいもんだな。」

    ↗
  51. 51

    ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。

    ↗
  52. 52

    そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長い柄えのついたブラシが置いてあったのです。扉には赤い字で、

    ↗
CHAPTER

二

次々と現れる注文

  1. 53

    「お客さまがた、ここで髪かみをきちんとして、それからはきものの泥どろを落してください。」と書いてありました。「これはどうも尤もっともだ。

    ↗
  2. 54

    僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」

    ↗
  3. 55

    「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉えらい人たちが、たびたび来るんだ。」そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴くつの泥を落しました。そしたら、どうです。

    ↗
  4. 56

    ブラシを板の上に置くや否いなや、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。

    ↗
  5. 57

    二人はびっくりして、互たがいによりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。

    ↗
  6. 58

    早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方とほうもないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。

    ↗
  7. 59

    扉の内側に、また変なことが書いてありました。

    ↗
  8. 60

    「鉄砲と弾丸たまをここへ置いてください。」見るとすぐ横に黒い台がありました。

    ↗
  9. 61

    「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」

    ↗
  10. 62

    「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだ。」

    ↗
  11. 63

    二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。

    ↗
  12. 64

    また黒い扉がありました。「どうか帽子ぼうしと外套がいとうと靴をおとり下さい。」「どうだ、とるか。」

    ↗
  13. 65

    「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。

    ↗
  14. 66

    奥に来ているのは」

    ↗
  15. 67

    二人は帽子とオーバーコートを釘くぎにかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。

    ↗
  16. 68

    扉の裏側には、「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡めがね、財布さいふ、その他金物類、ことに尖とがったものは、みんなここに置いてください」

    ↗
  17. 69

    と書いてありました。

    ↗
  18. 70

    扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。

    ↗
  19. 71

    鍵かぎまで添そえてあったのです。

    ↗
  20. 72

    「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。

    ↗
  21. 73

    金気かなけのものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないと斯こう云うんだろう。」「そうだろう。して見ると勘定かんじょうは帰りにここで払はらうのだろうか。」「どうもそうらしい。」「そうだ。

    ↗
  22. 74

    きっと。」二人はめがねをはずしたり、カフスボタンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠じょうをかけました。すこし行きますとまた扉とがあって、その前に硝子がらすの壺つぼが一つありました。扉には斯こう書いてありました。

    ↗
  23. 75

    「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」

    ↗
  24. 76

    みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。

    ↗
  25. 77

    「クリームをぬれというのはどういうんだ。」

    ↗
  26. 78

    「これはね、外がひじょうに寒いだろう。

    ↗
  27. 79

    室へやのなかがあんまり暖いとひびがきれるから、その予防なんだ。

    ↗
  28. 80

    どうも奥には、よほどえらいひとがきている。

    ↗
  29. 81

    こんなとこで、案外ぼくらは、貴族とちかづきになるかも知れないよ。」

    ↗
  30. 82

    二人は壺のクリームを、顔に塗って手に塗ってそれから靴下をぬいで足に塗りました。

    ↗
  31. 83

    それでもまだ残っていましたから、

    ↗
  32. 84

    それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら喰べました。

    ↗
  33. 85

    それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、

    ↗
  34. 86

    「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」

    ↗
  35. 87

    と書いてあって、ちいさなクリームの壺がここにも置いてありました。

    ↗
  36. 88

    「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。

    ↗
  37. 89

    あぶなく耳にひびを切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到しゅうとうだね。」「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。

    ↗
  38. 90

    ところでぼくは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」

    ↗
  39. 91

    するとすぐその前に次の戸がありました。「料理はもうすぐできます。

    ↗
  40. 92

    十五分とお待たせはいたしません。すぐたべられます。

    ↗
  41. 93

    早くあなたの頭に瓶びんの中の香水をよく振ふりかけてください。」

    ↗
  42. 94

    そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。

    ↗
  43. 95

    二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。

    ↗
  44. 96

    ところがその香水は、どうも酢すのような匂においがするのでした。「この香水はへんに酢くさい。

    ↗
  45. 97

    どうしたんだろう。」「まちがえたんだ。

    ↗
  46. 98

    下女が風邪かぜでも引いてまちがえて入れたんだ。」

    ↗
  47. 99

    二人は扉をあけて中にはいりました。

    ↗
  48. 100

    扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。

    ↗
  49. 101

    「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。

    ↗
  50. 102

    もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん

    ↗
  51. 103

    よくもみ込んでください。」

    ↗
  52. 104

    なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、

    ↗
CHAPTER

三

扉の向こうの青い目

  1. 105

    こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互にクリームをたくさん塗った顔を見合せました。

    ↗
  2. 106

    「どうもおかしいぜ。」「ぼくもおかしいとおもう。」

    ↗
  3. 107

    「沢山たくさんの注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」

    ↗
  4. 108

    「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家うちとこういうことなんだ。

    ↗
  5. 109

    これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」

    ↗
  6. 110

    がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。

    ↗
  7. 111

    「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」

    ↗
  8. 112

    がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。

    ↗
  9. 113

    「遁にげ……。」がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押おそうとしましたが、どうです、戸はもう一分いちぶも動きませんでした。

    ↗
  10. 114

    奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、

    ↗
  11. 115

    銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、

    ↗
  12. 116

    「いや、わざわざご苦労です。大へん結構にできました。

    ↗
  13. 117

    さあさあおなかにおはいりください。」と書いてありました。

    ↗
  14. 118

    おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉めだまがこっちをのぞいています。「うわあ。」がたがたがたがた。

    ↗
  15. 119

    「うわあ。」がたがたがたがた。ふたりは泣き出しました。

    ↗
  16. 120

    すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。「だめだよ。

    ↗
  17. 121

    もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」「あたりまえさ。

    ↗
  18. 122

    親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜まぬけたことを書いたもんだ。」「どっちでもいいよ。

    ↗
  19. 123

    どうせぼくらには、骨も分けて呉くれやしないんだ。」「それはそうだ。

    ↗
  20. 124

    けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」

    ↗
  21. 125

    「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。

    ↗
  22. 126

    いらっしゃい。いらっしゃい。

    ↗
  23. 127

    お皿さらも洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。

    ↗
  24. 128

    あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。

    ↗
  25. 129

    はやくいらっしゃい。」「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。

    ↗
  26. 130

    それともサラドはお嫌きらいですか。

    ↗
  27. 131

    そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。

    ↗
  28. 132

    とにかくはやくいらっしゃい。」

    ↗
  29. 133

    二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑かみくずのようになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。

    ↗
  30. 134

    中ではふっふっとわらってまた叫さけんでいます。「いらっしゃい、いらっしゃい。

    ↗
  31. 135

    そんなに泣いては折角せっかくのクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。

    ↗
  32. 136

    じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」

    ↗
  33. 137

    「早くいらっしゃい。

    ↗
  34. 138

    親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、

    ↗
  35. 139

    お客さま方を待っていられます。」

    ↗
  36. 140

    二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。

    ↗
  37. 141

    そのときうしろからいきなり、「わん、わん、ぐゎあ。」

    ↗
  38. 142

    という声がして、あの白熊しろくまのような犬が二疋ひき、扉とをつきやぶって室へやの中に飛び込んできました。鍵穴かぎあなの眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくる廻まわっていましたが、また一声「わん。」

    ↗
  39. 143

    と高く吠ほえて、いきなり次の扉に飛びつきました。

    ↗
  40. 144

    戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。

    ↗
  41. 145

    その扉の向うのまっくらやみのなかで、

    ↗
  42. 146

    「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」

    ↗
  43. 147

    という声がして、それからがさがさ鳴りました。

    ↗
  44. 148

    室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。

    ↗
  45. 149

    見ると、上着や靴くつや財布さいふやネクタイピンは、あっちの枝えだにぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。

    ↗
  46. 150

    風がどうと吹ふいてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

    ↗
  47. 151

    犬がふうとうなって戻もどってきました。そしてうしろからは、「旦那だんなあ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。二人は俄にわかに元気がついて「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」

    ↗
  48. 152

    と叫びました。簔帽子みのぼうしをかぶった専門の猟師りょうしが、草をざわざわ分けてやってきました。

    ↗
  49. 153

    そこで二人はやっと安心しました。

    ↗
  50. 154

    そして猟師のもってきた団子だんごをたべ、途中とちゅうで十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。

    ↗
  51. 155

    しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、

    ↗
  52. 156

    東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。

    ↗