にんげんしっかく
人間失格
太宰 治 著
「恥の多い生涯を送って来ました。」自分には、人間の営みというものがまるで見当がつかない。他者への恐怖と疎外感に怯えながら、破滅へと向かう主人公・葉蔵が、人間への最後の求愛として身につけた「道化」の告白。
全321画面で、一文ずつめくる名文読書。
書誌情報・読書目安
- 初出
- 1948(昭和23)年
- 読了目安
- 約7分(全321画面)
- 文字遣い
- 新字新仮名
- 底本
- 底本:『人間失格』新潮文庫、新潮社
- 入力・校正
- 入力:富田倫生 校正:もりみつじゅんじ
文章の目次
321 CHUNKS一
はしがき・三枚の写真
- 01
はしがき私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
↗ - 02
一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。
↗ - 03
醜く?
↗ - 04
けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、
↗ - 05
面白くも何とも無いような顔をして、「可愛い坊ちゃんですね」
↗ - 06
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」
↗ - 07
みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、
↗ - 08
いささかでも、美醜に就いての訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、
↗ - 09
「なんて、いやな子供だ」
↗ - 10
と頗る不快そうに呟き、毛虫でも払いのける時のような手つきで、その写真をほうり投げるかも知れない。
↗ - 11
まったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、
↗ - 12
イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。
↗ - 13
どだい、それは、笑顔でない。この子は、少しも笑ってはいないのだ。
↗ - 14
その証拠には、この子は、両方のこぶしを固く握って立っている。
↗ - 15
人間は、こぶしを固く握りながら笑えるものでは無いのである。猿だ。
↗ - 16
猿の笑顔だ。ただ、顔に醜い皺を寄せているだけなのである。「皺くちゃ坊ちゃん」
↗ - 17
とでも言いたくなるくらいの、まことに奇妙な、そうして、
↗ - 18
どこかけがらわしく、へんにひとをムカムカさせる表情の写真であった。
↗ - 19
私はこれまで、こんな不思議な表情の子供を見た事が、いちども無かった。
↗ - 20
第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。学生の姿である。
↗ - 21
高等学校時代の写真か、大学時代の写真か、はっきりしないけれども、
↗ - 22
とにかく、おそろしく美貌の学生である。
↗ - 23
しかし、これもまた、不思議にも、生きている人間の感じはしなかった。
↗ - 24
学生服を着て、胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、籐椅子に腰かけて足を組み、そうして、やはり、笑っている。
↗ - 25
こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、
↗ - 26
しかし、人間の笑いと、どこやら違う。血の重さ、とでも言おうか、生命の渋さ、とでも言おうか、
↗ - 27
そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、
↗ - 28
羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている。
↗ - 29
つまり、一から十まで造り物の感じなのである。
↗ - 30
キザと言っても足りない。軽薄と言っても足りない。
↗ - 31
ニヤケと言っても足りない。おしゃれと言っても、もちろん足りない。
↗ - 32
しかも、よく見ていると、やはりこの美貌の学生にも、
↗ - 33
どこか怪談じみた気味悪いものが感ぜられて来るのである。
↗ - 34
私はこれまで、こんな不思議な美貌の青年を見た事が、いちども無かった。
↗ - 35
もう一葉の写真は、最も奇怪なものである。
↗ - 36
まるでもう、としの頃がわからない。頭はいくぶん白髪のようである。
↗ - 37
それが、ひどく汚い部屋(部屋の壁が三箇所ほど崩れ落ちているのが、
↗ - 38
その写真にハッキリ写っている)の片隅で、小さい火鉢に両手をかざし、こんどは笑っていない。
↗ - 39
どんな表情も無い。
↗ - 40
謂わば、坐って火鉢に両手をかざしながら、自然に死んでいるような、
↗ - 41
まことにいまわしい、不吉なにおいのする写真であった。
↗ - 42
奇怪なのは、それだけでない。
↗ - 43
その写真には、わりに顔が大きく写っていたので、私は、つくづくその顔の構造を調べる事が出来たのであるが、額は平凡、額の皺も平凡、眉も平凡、眼も平凡、鼻も口も顎も、ああ、この顔には表情が無いばかりか、印象さえ無い。
↗ - 44
特徴が無いのだ。たとえば、私がこの写真を見て、眼をつぶる。
↗ - 45
既に私はこの顔を忘れている。
↗ - 46
部屋の壁や、小さい火鉢は思い出す事が出来るけれども、
↗ - 47
その部屋の主人公の顔の印象は、すっと霧消して、どうしても、何としても思い出せない。
↗ - 48
画にならない顔である。漫画にも何もならない顔である。眼をひらく。
↗ - 49
あ、こんな顔だったのか、思い出した、というようなよろこびさえ無い。
↗ - 50
極端な言い方をすれば、眼をひらいてその写真を再び見ても、思い出せない。
↗ - 51
そうして、ただもう不愉快、イライラして、つい眼をそむけたくなる。
↗ - 52
所謂「死相」
↗ - 53
というものにだって、もっと何か表情なり印象なりがあるものだろうに、
↗ - 54
人間のからだに駄馬の首でもくっつけたなら、こんな感じのものになるであろうか、
↗ - 55
とにかく、どこという事なく、見る者をして、ぞっとさせ、いやな気持にさせるのだ。
↗ - 56
私はこれまで、こんな不思議な男の顔を見た事が、やはり、いちども無かった。
↗ - 57
恥の多い生涯を送って来ました。
↗ - 58
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
↗ - 59
自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。
↗ - 60
自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、
↗ - 61
そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、
↗ - 62
ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、
↗ - 63
ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。
↗ - 64
しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、
↗ - 65
それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、
↗ - 66
のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、
↗ - 67
にわかに興が覚めました。
↗ - 68
また、自分は子供の頃、絵本で地下鉄道というものを見て、これもやはり、
↗ - 69
実利的な必要から案出せられたものではなく、地上の車に乗るよりは、
↗ - 70
地下の車に乗ったほうが風がわりで面白い遊びだから、とばかり思っていました。
↗ - 71
自分は子供の頃から病弱で、よく寝込みましたが、寝ながら、敷布、
↗ - 72
枕のカヴァ、掛蒲団のカヴァを、つくづく、つまらない装飾だと思い、
↗ - 73
それが案外に実用品だった事を、二十歳ちかくになってわかって、
↗ - 74
人間のつましさに暗然とし、悲しい思いをしました。
↗ - 75
また、自分は、空腹という事を知りませんでした。
↗ - 76
いや、それは、自分が衣食住に困らない家に育ったという意味ではなく、
↗ - 77
そんな馬鹿な意味ではなく、自分には「空腹」
↗ - 78
という感覚はどんなものだか、さっぱりわからなかったのです。
↗ - 79
へんな言いかたですが、おなかが空いていても、自分でそれに気がつかないのです。
↗ - 80
小学校、中学校、自分が学校から帰って来ると、周囲の人たちが、それ、
↗ - 81
おなかが空いたろう、自分たちにも覚えがある、
↗ - 82
学校から帰って来た時の空腹は全くひどいからな、甘納豆はどう?
↗ - 83
カステラも、パンもあるよ、などと言って騒ぎますので、
↗ - 84
自分は持ち前のおべっか精神を発揮して、おなかが空いた、と呟いて、
↗ - 85
甘納豆を十粒ばかり口にほうり込むのですが、空腹感とは、どんなものだか、
↗ - 86
ちっともわかっていやしなかったのです。
↗ - 87
自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。
↗ - 88
めずらしいと思われたものを食べます。
↗ - 89
豪華と思われたものを食べます。
↗ - 90
また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べます。
↗ - 91
そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。
↗ - 92
自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、めいめいのお膳を二列に向い合せに並べて、
↗ - 93
末っ子の自分は、もちろん一ばん下の座でしたが、その食事の部屋は薄暗く、
↗ - 94
昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、
↗ - 95
自分はいつも肌寒い思いをしました。
↗ - 96
それに田舎の昔気質の家でしたので、おかずも、たいていきまっていて、
↗ - 97
めずらしいもの、豪華なもの、そんなものは望むべくもなかったので、
↗ - 98
いよいよ自分は食事の時刻を恐怖しました。
↗ - 99
自分はその薄暗い部屋の末席に、寒さにがたがた震える思いで口にごはんを少量ずつ運び、
↗ - 100
押し込み、人間は、どうして一日に三度々々ごはんを食べるのだろう、
↗ - 101
実にみな厳粛な顔をして食べている、これも一種の儀式のようなもので、
↗ - 102
家族が日に三度々々、時刻をきめて薄暗い一部屋に集り、お膳を順序正しく並べ、
↗ - 103
食べたくなくても無言でごはんを噛みながら、うつむき、
↗ - 104
家中にうごめいている霊たちに祈るためのものかも知れない、とさえ考えた事があるくらいでした。
↗ - 105
めしを食べなければ死ぬ、という言葉は、自分の耳には、
↗ - 106
ただイヤなおどかしとしか聞えませんでした。
↗ - 107
その迷信は、(いまでも自分には、何だか迷信のように思われてならないのですが)しかし、
↗
二
第一の手記・恥の多い生涯
- 108
いつも自分に不安と恐怖を与えました。
↗ - 109
人間は、めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べなければならぬ、という言葉ほど自分にとって難解で晦渋で、そうして脅迫めいた響きを感じさせる言葉は、無かったのです。
↗ - 110
つまり自分には、人間の営みというものが未だに何もわかっていない、という事になりそうです。
↗ - 111
自分の幸福の観念と、世のすべての人たちの幸福の観念とが、まるで食いちがっているような不安、自分はその不安のために夜々、転輾し、呻吟し、発狂しかけた事さえあります。
↗ - 112
自分は、いったい幸福なのでしょうか。
↗ - 113
自分は小さい時から、実にしばしば、仕合せ者だと人に言われて来ましたが、
↗ - 114
自分ではいつも地獄の思いで、かえって、自分を仕合せ者だと言ったひとたちのほうが、
↗ - 115
比較にも何もならぬくらいずっとずっと安楽なように自分には見えるのです。
↗ - 116
自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、
↗ - 117
隣人が脊負ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、
↗ - 118
思った事さえありました。つまり、わからないのです。
↗ - 119
隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。
↗ - 120
プラクテカルな苦しみ、ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、
↗ - 121
しかし、それこそ最も強い痛苦で、自分の例の十個の禍いなど、
↗ - 122
吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかも知れない、それは、
↗ - 123
わからない、しかし、それにしては、よく自殺もせず、発狂もせず、
↗ - 124
政党を論じ、絶望せず、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、苦しくないんじゃないか?
↗ - 125
エゴイストになりきって、しかもそれを当然の事と確信し、
↗ - 126
いちども自分を疑った事が無いんじゃないか?
↗ - 127
それなら、楽だ、しかし、人間というものは、皆そんなもので、またそれで満点なのではないかしら、わからない、……夜はぐっすり眠り、朝は爽快なのかしら、どんな夢を見ているのだろう、道を歩きながら何を考えているのだろう、金?
↗ - 128
まさか、それだけでも無いだろう、人間は、めしを食うために生きているのだ、
↗ - 129
という説は聞いた事があるような気がするけれども、金のために生きている、
↗ - 130
という言葉は、耳にした事が無い、いや、しかし、ことに依ると、……
↗ - 131
いや、それもわからない、……考えれば考えるほど、自分には、
↗ - 132
わからなくなり、自分ひとり全く変っているような、不安と恐怖に襲われるばかりなのです。
↗ - 133
自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。
↗ - 134
何を、どう言ったらいいのか、わからないのです。
↗ - 135
そこで考え出したのは、道化でした。
↗ - 136
それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。
↗ - 137
自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、
↗ - 138
どうしても思い切れなかったらしいのです。
↗ - 139
そうして自分は、この道化の一線でわずかに人間につながる事が出来たのでした。
↗ - 140
おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心は必死の、
↗ - 141
それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、油汗流してのサーヴィスでした。
↗ - 142
自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、
↗ - 143
またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、
↗ - 144
ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。
↗ - 145
つまり、自分は、いつのまにやら、一言も本当の事を言わない子になっていたのです。
↗ - 146
その頃の、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、
↗ - 147
他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、
↗ - 148
必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。
↗ - 149
これもまた、自分の幼く悲しい道化の一種でした。
↗ - 150
また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、
↗ - 151
狂うみたいになり、口応えどころか、そのおこごとこそ、謂わば万世一系の人間の「真理」
↗ - 152
とかいうものに違いない、自分にはその真理を行う力が無いのだから、
↗ - 153
もはや人間と一緒に住めないのではないかしら、と思い込んでしまうのでした。
↗ - 154
だから自分には、言い争いも自己弁解も出来ないのでした。
↗ - 155
人から悪く言われると、いかにも、もっとも、
↗ - 156
自分がひどい思い違いをしているような気がして来て、
↗ - 157
いつもその攻撃を黙して受け、内心、狂うほどの恐怖を感じました。
↗ - 158
それは誰でも、人から非難せられたり、怒られたりしていい気持がするものでは無いかも知れませんが、自分は怒っている人間の顔に、獅子よりも鰐よりも竜よりも、もっとおそろしい動物の本性を見るのです。
↗ - 159
ふだんは、その本性をかくしているようですけれども、何かの機会に、
↗ - 160
たとえば、牛が草原でおっとりした形で寝ていて、突如、
↗ - 161
尻尾でピシッと腹の虻を打ち殺すみたいに、不意に人間のおそろしい正体を、怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも髪の逆立つほどの戦慄を覚え、
↗ - 162
この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れないと思えば、
↗ - 163
ほとんど自分に絶望を感じるのでした。
↗ - 164
人間に対して、いつも恐怖に震いおののき、また、人間としての自分の言動に、
↗ - 165
みじんも自信を持てず、そうして自分ひとりの懊悩は胸の中の小箱に秘め、
↗ - 166
その憂鬱、ナアヴァスネスを、ひたかくしに隠して、ひたすら無邪気の楽天性を装い、
↗ - 167
自分はお道化たお変人として、次第に完成されて行きました。
↗ - 168
何でもいいから、笑わせておればいいのだ、そうすると、人間たちは、自分が彼等の所謂「生活」
↗ - 169
の外にいても、あまりそれを気にしないのではないかしら、とにかく、
↗ - 170
彼等人間たちの目障りになってはいけない、自分は無だ、風だ、空だ、
↗ - 171
というような思いばかりが募り、自分はお道化に依って家族を笑わせ、
↗ - 172
また、家族よりも、もっと不可解でおそろしい下男や下女にまで、
↗ - 173
必死のお道化のサーヴィスをしたのです。
↗ - 174
自分は夏に、浴衣の下に赤い毛糸のセエターを着て廊下を歩き、家中の者を笑わせました。
↗ - 175
めったに笑わない長兄も、それを見て噴き出し、
↗ - 176
「それあ、葉ちゃん、似合わない」
↗ - 177
と、可愛くてたまらないような口調で言いました。
↗ - 178
なに、自分だって、真夏に毛糸のセエターを着て歩くほど、いくら何でも、
↗ - 179
そんな、暑さ寒さを知らぬお変人ではありません。
↗ - 180
姉の脚絆を両腕にはめて、浴衣の袖口から覗かせ、以てセエターを着ているように見せかけていたのです。
↗ - 181
自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘を持っていて、
↗ - 182
月の大半は東京のその別荘で暮していました。そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、
↗ - 183
実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
↗ - 184
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。
↗ - 185
父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。
↗ - 186
「葉蔵は?」と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。
↗ - 187
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。
↗ - 188
どうでもいい、どうせ自分を楽しくさせてくれるものなんか無いんだという思いが、
↗ - 189
ちらと動くのです。
↗ - 190
と、同時に、人から与えられるものを、どんなに自分の好みに合わなくても、
↗ - 191
それを拒む事も出来ませんでした。
↗ - 192
イヤな事を、イヤと言えず、また、好きな事も、おずおずと盗むように、極めてにがく味い、そうして言い知れぬ恐怖感にもだえるのでした。
↗ - 193
つまり、自分には、二者選一の力さえ無かったのです。
↗ - 194
これが、後年に到り、いよいよ自分の所謂「恥の多い生涯」
↗ - 195
の、重大な原因ともなる性癖の一つだったように思われます。
↗ - 196
自分が黙って、もじもじしているので、父はちょっと不機嫌な顔になり、
↗ - 197
「やはり、本か。浅草の仲店にお正月の獅子舞いのお獅子、
↗ - 198
子供がかぶって遊ぶのには手頃な大きさのが売っていたけど、欲しくないか」
↗ - 199
欲しくないか、と言われると、もうダメなんです。
↗ - 200
お道化た返事も何も出来やしないんです。
↗ - 201
お道化役者は、完全に落第でした。「本が、いいでしょう」
↗ - 202
長兄は、まじめな顔をして言いました。「そうか」
↗ - 203
父は、興覚め顔に手帖に書きとめもせず、パチと手帖を閉じました。
↗ - 204
何という失敗、自分は父を怒らせた、父の復讐は、きっと、
↗ - 205
おそるべきものに違いない、いまのうちに何とかして取りかえしのつかぬものか、
↗ - 206
とその夜、蒲団の中でがたがた震えながら考え、そっと起きて客間に行き、
↗ - 207
父が先刻、手帖をしまい込んだ筈の机の引き出しをあけて、手帖を取り上げ、
↗ - 208
パラパラめくって、お土産の注文記入の個所を見つけ、手帖の鉛筆をなめて、
↗ - 209
シシマイ、と書いて寝ました。
↗ - 210
自分はその獅子舞いのお獅子を、ちっとも欲しくは無かったのです。
↗ - 211
かえって、本のほうがいいくらいでした。
↗ - 212
けれども、自分は、父がそのお獅子を自分に買って与えたいのだという事に気がつき、
↗ - 213
父のその意向に迎合して、父の機嫌を直したいばかりに、深夜、
↗ - 214
客間に忍び込むという冒険を、敢えておかしたのでした。
↗
三
道化という名の仮面
- 215
そうして、この自分の非常の手段は、果して思いどおりの大成功を以て報いられました。
↗ - 216
やがて、父は東京から帰って来て、母に大声で言っているのを、自分は子供部屋で聞いていました。
↗ - 217
「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。
↗ - 218
これは、私の字ではない。はてな?と首をかしげて、思い当りました。
↗ - 219
これは、葉蔵のいたずらですよ。
↗ - 220
あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、あとで、
↗ - 221
どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。
↗ - 222
何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。
↗ - 223
知らん振りして、ちゃんと書いている。
↗ - 224
そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。
↗ - 225
私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。
↗ - 226
葉蔵を早くここへ呼びなさい」
↗ - 227
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そろっていました)自分はその出鱈目の曲に合せて、インデヤンの踊りを踊って見せて、皆を大笑いさせました。
↗ - 228
次兄は、フラッシュを焚いて、自分のインデヤン踊りを撮影して、
↗ - 229
その写真が出来たのを見ると、自分の腰布(それは更紗の風呂敷でした)の合せ目から、
↗ - 230
小さいおチンポが見えていたので、これがまた家中の大笑いでした。
↗ - 231
自分にとって、これまた意外の成功というべきものだったかも知れません。
↗ - 232
自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、たいへんな馴染で、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。
↗ - 233
しかし、嗚呼、学校!自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。
↗ - 234
尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。
↗ - 235
ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、
↗ - 236
木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬される」
↗ - 237
という状態の自分の定義でありました。人間をだまして、「尊敬され」
↗ - 238
ても、誰かひとりが知っている、そうして、人間たちも、やがて、
↗ - 239
そのひとりから教えられて、だまされた事に気づいた時、
↗ - 240
その時の人間たちの怒り、復讐は、いったい、まあ、どんなでしょうか。
↗ - 241
想像してさえ、身の毛がよだつ心地がするのです。
↗ - 242
自分は、金持ちの家に生れたという事よりも、俗にいう「できる」
↗ - 243
事に依って、学校中の尊敬を得そうになりました。
↗ - 244
自分は、子供の頃から病弱で、よく一つき二つき、
↗ - 245
また一学年ちかくも寝込んで学校を休んだ事さえあったのですが、
↗ - 246
それでも、病み上りのからだで人力車に乗って学校へ行き、
↗ - 247
学年末の試験を受けてみると、クラスの誰よりも所謂「できて」
↗ - 248
いるようでした。
↗ - 249
からだ具合いのよい時でも、自分は、さっぱり勉強せず、
↗ - 250
学校へ行っても授業時間に漫画などを書き、
↗ - 251
休憩時間にはそれをクラスの者たちに説明して聞かせて、笑わせてやりました。
↗ - 252
また、綴り方には、滑稽噺ばかり書き、先生から注意されても、しかし、自分は、やめませんでした。
↗ - 253
先生は、実はこっそり自分のその滑稽噺を楽しみにしている事を自分は、知っていたからでした。
↗ - 254
或る日、自分は、れいに依って、自分が母に連れられて上京の途中の汽車で、
↗ - 255
おしっこを客車の通路にある痰壺にしてしまった失敗談(しかし、
↗ - 256
その上京の時に、自分は痰壺と知らずにしたのではありませんでした。
↗ - 257
子供の無邪気をてらって、わざと、そうしたのでした)を、
↗ - 258
ことさらに悲しそうな筆致で書いて提出し、先生は、
↗ - 259
きっと笑うという自信がありましたので、職員室に引き揚げて行く先生のあとを、
↗ - 260
そっとつけて行きましたら、先生は、教室を出るとすぐ、自分のその綴り方を、
↗ - 261
他のクラスの者たちの綴り方の中から選び出し、廊下を歩きながら読みはじめて、
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クスクス笑い、やがて職員室にはいって読み終えたのか、
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顔を真赤にして大声を挙げて笑い、他の先生に、
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さっそくそれを読ませているのを見とどけ、自分は、たいへん満足でした。
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お茶目。自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。
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尊敬される事から、のがれる事に成功しました。
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通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、
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六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。
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けれども自分の本性は、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。その頃、既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました。
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幼少の者に対して、そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、
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残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。
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しかし、自分は、忍びました。
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これでまた一つ、人間の特質を見たというような気持さえして、そうして、力無く笑っていました。
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もし自分に、本当の事を言う習慣がついていたなら、悪びれず、
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彼等の犯罪を父や母に訴える事が出来たのかも知れませんが、しかし、
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自分は、その父や母をも全部は理解する事が出来なかったのです。
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人間に訴える、自分は、その手段には少しも期待できませんでした。
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父に訴えても、母に訴えても、お巡りに訴えても、政府に訴えても、
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結局は世渡りに強い人の、世間に通りのいい言いぶんに言いまくられるだけの事では無いかしら。
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必ず片手落のあるのが、わかり切っている、所詮、人間に訴えるのは無駄である、
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自分はやはり、本当の事は何も言わず、忍んで、そうしてお道化をつづけているより他、
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無い気持なのでした。なんだ、人間への不信を言っているのか?へえ?
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お前はいつクリスチャンになったんだい、と嘲笑する人も或いはあるかも知れませんが、
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しかし、人間への不信は、必ずしもすぐに宗教の道に通じているとは限らないと、
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自分には思われるのですけど。
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現にその嘲笑する人をも含めて、人間は、お互いの不信の中で、
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エホバも何も念頭に置かず、平気で生きているではありませんか。
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やはり、自分の幼少の頃の事でありましたが、父の属していた或る政党の有名人が、
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この町に演説に来て、自分は下男たちに連れられて劇場に聞きに行きました。
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満員で、そうして、この町の特に父と親しくしている人たちの顔は皆、
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見えて、大いに拍手などしていました。
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演説がすんで、聴衆は雪の夜道を三々五々かたまって家路に就き、
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クソミソに今夜の演説会の悪口を言っているのでした。
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中には、父と特に親しい人の声もまじっていました。
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父の開会の辞も下手、れいの有名人の演説も何が何やら、わけがわからぬ、
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とその所謂父の「同志たち」が怒声に似た口調で言っているのです。
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そうしてそのひとたちは、自分の家に立ち寄って客間に上り込み、
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今夜の演説会は大成功だったと、しんから嬉しそうな顔をして父に言っていました。
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下男たちまで、今夜の演説会はどうだったと母に聞かれ、とても面白かった、
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と言ってけろりとしているのです。
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演説会ほど面白くないものはない、と帰る途々、下男たちが嘆き合っていたのです。
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しかし、こんなのは、ほんのささやかな一例に過ぎません。
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互いにあざむき合って、しかもいずれも不思議に何の傷もつかず、
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あざむき合っている事にさえ気がついていないみたいな、実にあざやかな、
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それこそ清く明るくほがらかな不信の例が、人間の生活に充満しているように思われます。
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けれども、自分には、あざむき合っているという事には、さして特別の興味もありません。
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自分だって、お道化に依って、朝から晩まで人間をあざむいているのです。
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自分は、修身教科書的な正義とか何とかいう道徳には、あまり関心を持てないのです。
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自分には、あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きている、
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或いは生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです。
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人間は、ついに自分にその妙諦を教えてはくれませんでした。
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それさえわかったら、自分は、人間をこんなに恐怖し、また、
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必死のサーヴィスなどしなくて、すんだのでしょう。
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人間の生活と対立してしまって、夜々の地獄のこれほどの苦しみを嘗めずにすんだのでしょう。
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つまり、自分が下男下女たちの憎むべきあの犯罪をさえ、
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誰にも訴えなかったのは、人間への不信からではなく、
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また勿論クリスト主義のためでもなく、人間が、
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葉蔵という自分に対して信用の殻を固く閉じていたからだったと思います。
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父母でさえ、自分にとって難解なものを、時折、見せる事があったのですから。
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そうして、その、誰にも訴えない、自分の孤独の匂いが、多くの女性に、本能に依って嗅ぎ当てられ、後年さまざま、自分がつけ込まれる誘因の一つになったような気もするのです。
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つまり、自分は、女性にとって、恋の秘密を守れる男であったというわけなのでした。
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