はしれめろす
走れメロス
太宰 治 著
暴君ディオニスに処刑を言い渡された熱血の青年メロス。妹の結婚式を挙げるため、親友セリヌンティウスを身代わりに立て、三日間の猶予を得る。豪雨、濁流、山賊、猛暑の疲労に抗いながら、メロスは夕陽の処刑場を目指してひた走る。
全326画面で、一文ずつめくる名文読書。
文章の目次
326 CHUNKS一
激怒と誓約
- 01
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。
↗ - 02
メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。
↗ - 03
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
↗ - 04
きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。
↗ - 05
女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。
↗ - 06
この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。
↗ - 07
メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
↗ - 08
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。
↗ - 09
メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。
↗ - 10
今は此のシラクスの市で、石工をしている。
↗ - 11
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
↗ - 12
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
↗ - 13
歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。
↗ - 14
ひっそりしている。
↗ - 15
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、
↗ - 16
夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
↗ - 17
のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。
↗ - 18
しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
↗ - 19
老爺は答えなかった。
↗ - 20
メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
↗ - 21
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
↗ - 22
「王様は、人を殺します。」「なぜ殺すのだ。」
↗ - 23
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
↗ - 24
「たくさんの人を殺したのか。」「はい、はじめは王様の妹婿さまを。
↗ - 25
それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。
↗ - 26
それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」
↗ - 27
「おどろいた。国王は乱心か。」「いいえ、乱心ではございませぬ。
↗ - 28
人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。
↗ - 29
このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、
↗ - 30
人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。
↗ - 31
御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。
↗ - 32
きょうは、六人殺されました。」聞いて、メロスは激怒した。
↗ - 33
「呆れた王だ。生かして置けぬ。」メロスは、単純な男であった。
↗ - 34
買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。
↗ - 35
たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。
↗ - 36
調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
↗ - 37
メロスは、王の前に引き出された。
↗ - 38
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
↗ - 39
「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。
↗ - 40
「おまえがか?」王は、憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。
↗ - 41
おまえには、わしの孤独がわからぬ。」「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。
↗ - 42
王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」
↗ - 43
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。
↗ - 44
人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。
↗ - 45
信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
↗ - 46
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」
↗ - 47
こんどはメロスが嘲笑した。「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」
↗ - 48
「だまれ、下賤の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。
↗ - 49
「口では、どんな清らかな事でも言える。
↗ - 50
わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。
↗ - 51
おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」「ああ、王は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。
↗ - 52
命乞いなど決してしない。ただ、――」
↗ - 53
と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、
↗ - 54
私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。
↗ - 55
たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。
↗ - 56
三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
↗ - 57
「ばかな。」と暴君は、嗄れた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
↗ - 58
「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。
↗ - 59
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。
↗ - 60
妹が、私の帰りを待っているのだ。
↗ - 61
そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。
↗ - 62
私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。
↗ - 63
私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、
↗ - 64
あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。
↗ - 65
どうせ帰って来ないにきまっている。
↗ - 66
この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。
↗ - 67
そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。
↗ - 68
人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。
↗ - 69
世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。「願いを、聞いた。
↗ - 70
その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。
↗ - 71
おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。
↗ - 72
ちょっとおくれて来るがいい。
↗ - 73
おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
↗ - 74
「なに、何をおっしゃる。」「はは。
↗ - 75
いのちが大事だったら、おくれて来い。
↗ - 76
おまえの心は、わかっているぞ。」メロスは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
↗ - 77
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。
↗ - 78
暴君ディオニスの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。
↗ - 79
メロスは、友に一切の事情を語った。
↗ - 80
セリヌンティウスは無言で首肯き、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。
↗ - 81
セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。
↗ - 82
初夏、満天の星である。
↗ - 83
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
↗ - 84
メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。
↗ - 85
よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
↗ - 86
「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。
↗ - 87
「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。
↗ - 88
あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
↗ - 89
妹は頬をあからめた。「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。
↗ - 90
さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。
↗ - 91
結婚式は、あすだと。」
↗ - 92
メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、
↗ - 93
祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
↗ - 94
眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
↗ - 95
そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
↗ - 96
婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ、と答えた。
↗ - 97
メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。
↗ - 98
婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。
↗ - 99
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
↗ - 100
結婚式は、真昼に行われた。
↗ - 101
新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、
↗ - 102
ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
↗ - 103
祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。メロスも、満面に喜色を湛え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。
↗ - 104
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
↗ - 105
メロスは、一生このままここにいたい、と思った。
↗ - 106
この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
↗ - 107
ままならぬ事である。
↗ - 108
メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
↗
二
濁流と死闘
- 109
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。
↗ - 110
ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
↗ - 111
その頃には、雨も小降りになっていよう。
↗ - 112
少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。
↗ - 113
メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。
↗ - 114
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、「おめでとう。
↗ - 115
私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。
↗ - 116
眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。
↗ - 117
私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。
↗ - 118
おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。
↗ - 119
おまえも、それは、知っているね。
↗ - 120
亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。
↗ - 121
おまえに言いたいのは、それだけだ。
↗ - 122
おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
↗ - 123
花嫁は、夢見心地で首肯いた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、
↗ - 124
「仕度の無いのはお互さまさ。
↗ - 125
私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、何も無い。
↗ - 126
全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」
↗ - 127
花婿は揉み手して、てれていた。
↗ - 128
メロスは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
↗ - 129
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
↗ - 130
メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、
↗ - 131
これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
↗ - 132
きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。
↗ - 133
そうして笑って磔の台に上ってやる。
↗ - 134
メロスは、悠々と身仕度をはじめた。
↗ - 135
雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。
↗ - 136
さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
↗ - 137
私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。
↗ - 138
身代りの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。
↗ - 139
そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。
↗ - 140
若いメロスは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
↗ - 141
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
↗ - 142
村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。
↗ - 143
メロスは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。
↗ - 144
妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。
↗ - 145
私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。
↗ - 146
まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。
↗ - 147
そんなに急ぐ必要も無い。
↗ - 148
ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。
↗ - 149
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。
↗ - 150
きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。
↗ - 151
あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
↗ - 152
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。
↗ - 153
メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。
↗ - 154
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを!時は刻々に過ぎて行きます。
↗ - 155
太陽も既に真昼時です。
↗ - 156
あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、
↗ - 157
あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」
↗ - 158
濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
↗ - 159
浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
↗ - 160
今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。
↗ - 161
ああ、神々も照覧あれ!
↗ - 162
濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。
↗ - 163
メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、
↗ - 164
必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。
↗ - 165
押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。
↗ - 166
ありがたい。
↗ - 167
メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。
↗ - 168
一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。
↗ - 169
ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、
↗ - 170
突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。「待て。」「何をするのだ。
↗ - 171
私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
↗ - 172
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
↗ - 173
「私にはいのちの他には何も無い。
↗ - 174
その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」
↗ - 175
「その、いのちが欲しいのだ。」
↗ - 176
「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
↗ - 177
山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。
↗ - 178
メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、
↗ - 179
その棍棒を奪い取って、「気の毒だが正義のためだ!」
↗ - 180
と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、
↗ - 181
と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。
↗ - 182
立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
↗ - 183
ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たメロスよ。真の勇者、メロスよ。
↗ - 184
今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
↗ - 185
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
↗ - 186
おまえは、稀代の不信の人間、まさしく王の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。
↗ - 187
身体疲労すれば、精神も共にやられる。
↗ - 188
もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。私は、これほど努力したのだ。
↗ - 189
約束を破る心は、みじんも無かった。
↗ - 190
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。
↗ - 191
動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。
↗ - 192
ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。
↗ - 193
愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。
↗ - 194
けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。
↗ - 195
私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。
↗ - 196
私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
↗ - 197
ああ、もう、どうでもいい。
↗ - 198
これが、私の定った運命なのかも知れない。
↗ - 199
セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。
↗ - 200
私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。
↗ - 201
いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
↗ - 202
いまだって、君は私を無心に待っているだろう。
↗ - 203
ああ、待っているだろう。ありがとう、セリヌンティウス。
↗ - 204
よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。
↗ - 205
友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
↗ - 206
セリヌンティウス、私は走ったのだ。
↗ - 207
君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ!
↗ - 208
私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。
↗ - 209
山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。
↗ - 210
私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。
↗ - 211
放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。
↗ - 212
だらしが無い。笑ってくれ。
↗ - 213
王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
↗ - 214
おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。
↗ - 215
私は王の卑劣を憎んだ。
↗ - 216
けれども、今になってみると、私は王の言うままになっている。
↗ - 217
私は、おくれて行くだろう。
↗
三
日没の疾走
- 218
王は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。
↗ - 219
そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。
↗ - 220
地上で最も、不名誉の人種だ。セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。
↗ - 221
君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。
↗ - 222
いや、それも私の、ひとりよがりか?
↗ - 223
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
↗ - 224
村には私の家が在る。羊も居る。
↗ - 225
妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。
↗ - 226
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
↗ - 227
人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。
↗ - 228
ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。
↗ - 229
どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
↗ - 230
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。
↗ - 231
そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
↗ - 232
すぐ足もとで、水が流れているらしい。
↗ - 233
よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。
↗ - 234
その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。
↗ - 235
水を両手で掬って、一くち飲んだ。
↗ - 236
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。
↗ - 237
行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。
↗ - 238
わが身を殺して、名誉を守る希望である。
↗ - 239
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
↗ - 240
日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。
↗ - 241
少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
↗ - 242
私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。
↗ - 243
死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。
↗ - 244
私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ!
↗ - 245
メロス。私は信頼されている。私は信頼されている。
↗ - 246
先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。
↗ - 247
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
↗ - 248
メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。
↗ - 249
再び立って走れるようになったではないか。ありがたい!
↗ - 250
私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。
↗ - 251
ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。
↗ - 252
私は生れた時から正直な男であった。
↗ - 253
正直な男のままにして死なせて下さい。
↗ - 254
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。
↗ - 255
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。
↗ - 256
一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
↗ - 257
「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」
↗ - 258
ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。
↗ - 259
その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。
↗ - 260
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
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風態なんかは、どうでもいい。
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メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。
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呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。
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はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。
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塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。「ああ、メロス様。」
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うめくような声が、風と共に聞えた。「誰だ。」
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メロスは走りながら尋ねた。「フィロストラトスでございます。
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貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」
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その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。
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「もう、駄目でございます。むだでございます。
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走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」「いや、まだ陽は沈まぬ。」
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「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。
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ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。
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ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
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「いや、まだ陽は沈まぬ。」
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メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。
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走るより他は無い。「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。
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いまはご自分のお命が大事です。
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あの方は、あなたを信じて居りました。
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刑場に引き出されても、平気でいました。
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王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、
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強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
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「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。
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間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。
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私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。
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ついて来い!フィロストラトス。」「ああ、あなたは気が狂ったか。
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それでは、うんと走るがいい。
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ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
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言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。
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最後の死力を尽して、メロスは走った。メロスの頭は、からっぽだ。
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何一つ考えていない。
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ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。
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陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、
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メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。「待て。
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その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。
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約束のとおり、いま、帰って来た。」
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と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
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すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。
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メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
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「私だ、刑吏!殺されるのは、私だ。メロスだ。
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彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。
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ゆるせ、と口々にわめいた。
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セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
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「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。
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ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。
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君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。
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殴れ。」
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セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。
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私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。
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生れて、はじめて君を疑った。
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君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
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メロスは腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。「ありがとう、友よ。」
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二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
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群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。
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暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、
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やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
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信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
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どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。
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どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
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どっと群衆の間に、歓声が起った。「万歳、王様万歳。」
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ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。
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佳き友は、気をきかせて教えてやった。
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「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。
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早くそのマントを着るがいい。
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この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
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勇者は、ひどく赤面した。(古伝説と、シルレルの詩から。)
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